大阪高等裁判所 昭和23年(ネ)306号 判決
控訴人は「原判決を取消す、被控訴人は、控訴人に対して、原判決添付の第二物件表記載の物件を引渡せ、若し右引渡のできない時、又は引渡を要しない時には金三万七千三百三十五円を支払え。被控訴人は、控訴人に対して、昭和十五年十一月十九日から、右引渡又は右金員支払済に至るまで、一ケ月金二百円の割合の、金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする」との判決を、被控訴人は「控訴棄却」の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴人において、仮りに本件抵当権の効力が、控訴人の本件動産を買受けた後も、依然として、該動産に及ぶ結果、競落によつてその所有権を被控訴人において取得したものとするも抵当権者は、本件競売手続において、特に従物たる右動産については、競売の申立をなさず、従つて裁判所も、最低競売価額を定めるに当つて、右動産の価額を加算せず、競落人たる被控訴人も又右動産を包含しない家屋の価額のみを見積つて、競売の申出をしたものであるから、被控訴人は、結局右動産の所有者である控訴人の損害において、右動産の価額に相当するものを不当に利得したこととなるか、又は民法第三百四十八条の準用によつて、控訴人に右価額を賠償すべきものである。従つて、被控訴人が事実上本件動産の引渡のできない時の外、控訴人の右動産に対する所有権が消滅し、被控訴人が控訴人に対して、法律上、その引渡をすることを要しない時にも、被控訴人は、本件動産の時価に相当する金員を、控訴人に支払うべきである。なお、本件抵当権の設定登記が、被控訴人主張の日になされたものであることは争わないが、右抵当権に基く、本件競売手続の競落許可決定には、その目的物として、本件動産の表示はなかつたものであると述べ、被控訴人において、本件抵当権の設定登記は、昭和四年八月十四日になされたものである。本件競落許可決定に、その目的物として、本件動産の表示のなかつたことは、これを認めると述べた外原判決記載の事実と同一であるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
原判決添付の第一物件表記載の各家屋は、もと訴外山本丈之助の所有であつたところ、同人は、昭和四年八月七日訴外株式会社兵庫県農工銀行(後に株式会社日本勧業銀行に合併)に対する債務の担保として、これに抵当権を設定し、同年八月十四日その旨の登記をしたものであるが、被控訴人は、その主張のような経過によつて、右家屋を競落して、その所有権を取得し、昭和十五年十一月十八日その旨の登記を受けたこと、及び原判決添付第二物件表記載の各動産は、同じく右山本丈之助の所有に属し、右抵当権設定当時より、右家屋に備付けて、その常用に供していたものであることは、当事者間に争のないところである。
そうすると本件動産は、右抵当権設定当時すでに、前示家屋の従物というべき関係にあつたものであるから、特にこれを抵当権の目的より除外する意思表示のあつたことを認め得ない本件においては、右家屋の抵当権の目的となつたものといわなければならぬ。
控訴人は、右動産は控訴人において、その後昭和十年十月十日山本丈之助より右家屋とともに買受け、動産については即日引渡を受けたのであるが、家屋については、所有権移転請求権保全の仮登記を受けたのにすぎないから、第三者たる被控訴人に家屋所有権の取得を対抗することができない結果、被控訴人との関係においては、ここに、主物たる右家屋と従物たる本件動産とは、その所有者を異にするに至り、主物従物の関係が失われ、抵当権の効力は、本件動産に及ばなくなると主張し、成立に争のない甲第一号証と原審証人膳師たみの証言、当審における控訴人本人の尋問の結果によると控訴人がその主張の日、(控訴人の右供述中買受けの日は昭和二十年十一月十日とあるは、甲第一号証に照して誤なりと認める)右動産を山本丈之助から買受け、且ついわゆる指図による占有の移転によつて、これが引渡を受けたことは認めることができるけれども、右証人膳師たみの証言によれば、右動産は控訴人がこれを買受けた後も、右家屋から取去られることなく、従前どおり引続きこれに備え付けたまま、その常用に供されていたことを認定するに足る。
しかして前示のように従物たる右動産の上にその効力の及ぶ本件抵当権は、従物が主物から分離せられない限り、たとえ抵当権設定登記後、主物と従物とがその所有者を異にするに至つても、依然としてその効力を従物の所有者たる第三者に対抗することができるものというべきである。けだし従物に対する抵当権の効力は、主物についての抵当権の設定登記と、従物が主物の常用のためこれに附属しているという客観的状態とによつて、第三者に対抗し得べきものであるから、右状態の存続する限り、抵当権設定登記後、従物の所有権を取得した第三者は、抵当権の効力の及んでいる状態において、従物について、その所有権を取得するにすぎないのであつて、ただ従物が主物から分離せられ右の客観的状態が二者の間になくなつた場合において初めて、従物についての抵当権の効力をもつて、その取得者に対抗することができないものと解すべきであるからである。
控訴人は本件動産を、その主物たる家屋についての抵当権設定登記後買受けたものであるが、右動産は絶えて家屋より分離されることのなかつたこと前示認定のごとくなる以上、右動産に対する本件抵当権の効力を否認し得ないことは右の説明によつて明白であろう。
また、成立に争なき乙第一号証、当審における証人島田源吉の証言、及び被控訴人本人の尋問の結果を照合すれば、本件競売の申立は、右家屋及びこれが従物たる本件動産を、その目的としてなされたものであることは明かであつて、この点に関する当審における控訴人本人の尋問の結果は信ずることができない。なお抵当権の実行のための家屋の競売においては、抵当権の効力の及ぶ従物たる動産のごときは、特にこれを競売の目的物としない趣旨の特段の措置の採られない限り、これをも競売の目的物としたものと見るべきものであつて、右競売事件の競落許可決定にその目的物として本件動産の表示のなかつたことは被控訴人の争わないところではあるが、一般に不動産競売手続において、その従物たる動産を競落許可決定に、必しも表示しないことは、当裁判所に、顕著なところであるから、右の一事は未だ、本件動産が、右競売の目的物でないとの証拠とするに足らず、その他右競売手続において前示のような特段の措置の採られたことを認めるべき証拠がないから、結局本件動産は、前示家屋と共に競売せられ、被控訴人において一括して競落し、その所有権を取得したものといわざるを得ない。
よつて最後に、被控訴人が果して右競落に基く本件動産の所有権の取得によつて、不当利得をしたか又は民法第二百四十八条により賠償義務があるかどうかを考えて見よう。
原審証人阪本吉太郎の証言、同証言によつてその成立を認め得る甲第三号証を綜合すると、前示競売事件において、鑑定人たる阪本吉太郎は、本件動産を除外した、右家屋のみについて、評価をしたことは明かであるから、執行裁判所も右の鑑定価額によつて、最低競売価額を定め、従つて被控訴人においても又この最低競売価額を基準として、競売の申込をなし、その結果右動産及び家屋を競落したものと推認することができる。
そうすると、右競売手続においては、その目的物の一つである本件動産については、鑑定人の評価がなかつたのに拘わらず、裁判所は、これを看過して、家屋についてのみなされた鑑定人の評価をもつて、右家屋及びこれが従物たる本件動産の最低競売価額を定めたものであるから、その手続にかしのあることはいうまでもない。しかしながら、かようなかしは競売手続において、異議又は抗告等の方法によつて、これが是正を求むべきものであつて、このことなくして、本件競売手続が完結した以上(この点については、弁論の全趣旨から見て当事者間に争のないものと認める)、も早右の手続上のかしに基いて、競落人たる被控訴人の本件家屋及び動産の所有権の取得を否認することはできないものといわねばならぬ。
本件において、被控訴人は前示のような違法に定められた最低競売価格のため、一見本件動産の価額に相当するものを、利得したようであるけれども、前段説明のように、右の違法は、今や被控訴人の競落による本件家屋及び動産の所有権取得について、主張することを得ない結果、被控訴人は、競売手続において申出でた価額で右家屋及び動産を、適法に取得したものというの外はないわけであるから、到底これをもつて法律上の原因なくして利得をしたものということはできない。
そして又民法第二百四十八条は、その前六条が、あたかも不当利得にあたる場合であるが、疑をさけるため注意的に規定したものにすぎないから、被控訴人の本件家屋及び動産の取得が、前示のように、法律上の原因がないといい得ない以上、右法条を援用して、被控訴人の賠償を求むる控訴人の主張は採用し得ないことは、明かである。
されば控訴人の本訴請求は理由がないから、原判決は相当であつて、本件控訴は民事訴訟法第三百八十四条によつて棄却すべく、訴訟費用について同法第九十五条、第八十九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 村上喜夫)